「ブレイルフレンドコンサート~虫愛ずる姫の話~」
■絵本の作者(加藤/マンドラ)と琵琶による読み聞かせ&演奏音源(サンプル)です。
ライブ版のため、いくつかミスがありますが、雰囲気をお楽しみください。
■はじめに
昔あるところに、とても風変がわりな姫がおりました。
年頃になってもお化粧やおしゃれに興味がなく、召使いの童たちに庭の虫を採ってこさせ、ずっと眺めているのでございます。
召使いが
「気味の悪い虫なんてご覧になっているのを、世間の人たちに知られたら、いい笑いものでございます。
大人になったら見た目を整え、良い殿方と結婚するのが女の子の幸せなのでございます。」
と、何度申し上げても、知らん顔。
ある日、童のひとりが採ってきた虫を持って、姫のお部屋へ伺うと、姫が泣いておられました。
童が理由を尋ねますと、お父さまとお母さまに叱られたのだと、教えてくださいました。
「『お父さまが得意な琵琶の弦も、お母さまがお召しの素敵な着物も、元は絹でしょう?蛾のさなぎから作られています。
さなぎのときは、役に立たつから重宝するけれど、蛾になってしまったら用済みなんて身勝手だわ』
そう申し上げたら
『へ理屈ばかりで憎たらしい。女の子は小賢しいことを言わず、黙って親の言うとおりにしていなさい』
ですって。」
姫は本当のことをおっしゃっただけなのに、どうして大人がそんなに怒るのか、童は不思議で仕方がありません。
童は、庭で見つけてきたてんとう虫を姫に差し出だすと、前から不思議に思っていたことを尋ねるのでございます。
'O Sole mio(オーソレミオ)
「どうして姫は、毎日飽きずに虫をご覧になるのですか?」
姫は、手のひらに乗せたてんとう虫が、指先のほうへ進んでいくのを眺め、おっしゃるのでございます。
「ものごとの、本当のことが知りたいの。
例えば、てんとう虫はお日さまが大好きで、空に向かって飛んでいくでしょう?」
確かに、てんとう虫がいたのは、お日さまのような黄色い花がたくさん咲いている花壇でございました。
「本当は、枝や葉の先まで行くと、行き場がなくなって上に飛び立っているだけなのです。
私は、それを知ってがっかりしたのだけど、お父さまは『後戻りしない勇敢な虫だ』とおっしゃって、お気に入りなの。
それから私もてんとう虫が好きになったのです。そして、他の虫のことも、もっと知りたいと思ったの。」
姫が虫を好きになったのは、お父さまがてんとう虫をお好きだったからなのでございます。
けれど今では、お父さまとお母さまに叱られていらっしゃるのを、童は気の毒に思うのでございました。
蛍こい
夏になると、蛍を採るためお屋敷の外に出かけた童は、不思議なことに気が付いたのでございます。
水辺の蛍は、はじめはばらばらに光ったり消えたりしているのですが、だんだんと揃ってくるのでございます。
しばらくすると、無数の蛍の群れが一斉に光ったり消たりし始めたのでございます。
姫は、どうしてもそれをご覧になりたいとおっしゃるのですが、童一人で採りきれるものではございません。
「あなたが採ってくることはないわ。私をそこへ連れて行ってちょうだい。」
「夜の道はとても怖いのです。それに姫を勝手に外に連れ出しては、姫のお父さまとお母さま、召使いたちに叱られてしまいます。」
とお止めしましたが、姫は聞く耳を持ちません。日が落ちると、仕方なく童は、姫を蛍の水辺にお連れしたのでございます。
水辺のあまりの美しさに姫が見入っておりますと、蛍が一斉に光り始めたのでございます。
まるで姫がお越しになったのを、蛍が喜んでいるようでございました。
Mexico Lindo y Querido(メヒコリンド イ ケリード)
ある日、童が空を見上げると、一面を埋め尽くすほどの蝶が南へ飛んでいくではございませんか。
脇目もふらず先を急ぐ蝶、木立にとまって羽を休める蝶、皆夕焼けのような橙色の羽をしておりました。
童が他の召使いたちに話すと、「そんなはずはない」と笑われ、「嘘をつくものではない」と叱られたのでございます。
誰にも信じてもらえず悲しくなった童は、姫なら何かご存知かもしれないと、姫のお部屋へと急いだのでございます。
姫は、童の話を黙って聞いたあと、
「亡くなった者の魂が蝶になり、家族の元に帰るという話を聞いたことがありますよ。何ヶ月もかけて飛ぶ蝶もいるのです。
今年は災害や疫病が多かったから、きっと帰る魂も多いのでしょう。」
と教えてくださいました。
童と姫は、蝶が無事に家族の元へ帰れるよう祈ったのでございます。
When The Saints Go Marching In(聖者の行進)
秋も深まり、童がいつものように虫を探しておりますと、落葉の中に蟻の行列を見つけたのでございます。
あるものは赤や黄色の葉の上に乗り、あるものは下をかいくぐり、いくつもの列をなして歩いておりました。
一心に歩く蟻をご覧になった姫は
「遠い異国では、肌の黒い人たちが奴隷として働いていると聞いたことがあります。
あまりにひどい扱いなので、彼らが亡くなるとお葬式ではお祝いの行列をするそうです。」
と教えてくださいました。
童が「もう会えないのに、ですか?」と尋ねますと
「みんないつかは天国でまた会えるでしょう?
だから別れの悲しみよりも、奴隷としての苦しみが終わって良かったと祝福するのですって。」
と、お教えくださいました。
「では、この蟻たちも、誰かが死んだらお祝いをするのですか?」
と尋ねますと、姫は
「分からないわ。けれど、蟻たちは奴隷ではないから、別れるのは悲しいかもしれないわね」
と少し寂しげにおっしゃったのでございます。
Summ,summ,summ(ぶんぶんぶん)
ある日、童が風邪をひいて寝込んでおりますと、姫がこっそり蜂蜜を持って来てくださいました。
「こんなにたくさんの蜂蜜、どうなさったのですか?」
驚いた童が、姫に尋ねますと、蜂を育てている人から分けてもらったのだと、教えてくださいました。
蓮華草や菜の花畑のそばに巣箱を置いておくと、働き蜂が蜜を運んで帰ってくるのでございます。
巣箱の中には、小さな六角形の部屋がずらりと並び、その中に蜂の子供がおなかをすかせて待っているというのでございます。
「巣箱の中にいるのは女王蜂の子供でしょう?
働き蜂は、どうして自分の子供ではないのに蜜を運ぶのですか?」
童が尋ねますと、姫は少し考えてから
「どうしてかしら。自分が運んできた蜜を子供がおいしそうに食べるのが嬉しいのではないかしら。
そういえば、あなたも私のためにいつも虫を採ってきてくれるわね。」
と、にっこり笑っておっしゃるのでございました。
童は、採ってきた虫をうれしそうに眺めていらっしゃる姫が、とても好きなのでございます。
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